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Ninomiya便り
2025.11.04
なぜ補償導線を使うのか?

【1】はじめに
工場や研究所などで、正確な温度測定が求められる現場は多くあります。
その代表的な温度センサーが「熱電対」です。
熱電対は幅広い温度範囲で使える優れたセンサーです。
しかし、実は「熱電対だけ」では正確な測定ができないことも。
その鍵を握るのが「補償導線」です。
この記事では、なぜ補償導線が必要なのか、どんな種類があるのかを解説します。
初心者の方にもわかりやすく説明しますので、ぜひご覧ください。

【2】補償導線が“必要”である理由
補償導線は、熱電対と測定器をつなぐ専用の導線です。
見た目はただの電線に見えますが、実は重要な役割を持っています。
熱電対は、2種類の金属を接合したときの温度差で電圧が発生します。
この微小な電圧を測定することで、温度を知る仕組みです。
ですが、測定器までの配線に普通の銅線を使ってしまうと、誤差が生じます。
これは、銅線が熱電対と異なる金属であるために起こる現象です。
補償導線は、熱電対の構成金属と似た熱起電力特性を持っています。
つまり、接続による誤差を最小限に抑える設計になっています。
適切な補償導線を使うことで、熱電対本来の精度が維持されます。
そのため、温度測定には補償導線が不可欠なのです。
【3】補償導線の背景:熱電対とその歴史
熱電対の原理は1821年、ゼーベックによって発見されました。
異なる金属を接合して温度差を与えると、電圧が発生する現象です。
この「ゼーベック効果」は、今日の熱電対技術の基礎となっています。
産業用として広く利用され始めたのは20世紀以降です。
高温環境でも使え、応答性も高く、コストも比較的低いため、
発電所、化学工場、食品工場などで使われてきました。
しかし、測定点と測定器の距離が長くなると誤差が問題になります。
それを解決するために、補償導線が開発されました。
補償導線は、誤差の発生を抑え、測定の信頼性を向上させます。
熱電対とともに、現代の温度測定に欠かせない技術です。

【4】主な熱電対の種類と補償導線
補償導線には、熱電対の種類ごとに対応するタイプがあります。
ここでは、日本で多く使われている代表的な熱電対をご紹介します。
※識別(カラー)はJIS C1610-1995 JIS C1610-2012 等規格で異なります、こちらのページの表にて確認いただけます。
-
- Kタイプ(クロメル・アルメル)
最も一般的なタイプ。工業分野で幅広く使用されます。
使用温度範囲が広く、耐酸化性も優れています。
補償導線の色はJISでは青系です。 - Rタイプ(白金・白金ロジウム)
高温環境で使われる高級タイプ。炉や焼結炉などで利用されます。
非常に高価で、白金を含んでいます。
補償導線の色は黒系です(JIS規格)。 - Tタイプ(銅・コンスタンタン)
低温用に適したタイプ。冷凍設備や食品分野で使用されます。
補償導線の色は茶系です。 - Eタイプ(クロメル・コンスタンタン)
感度が高く、微小な温度変化に強いタイプ。
電気機器や試験装置で使用されます。
補償導線の色は紫系です。 - Jタイプ(鉄・コンスタンタン)
古くからあるタイプで、今でも特定用途で使用されています。
補償導線の色は機系です。
それぞれの熱電対には対応した補償導線が必要です。
間違った組み合わせは、正確な測定を損なうため注意が必要です。
- Kタイプ(クロメル・アルメル)
【5】補償導線の主な規格と違い
補償導線には、いくつかの国際規格が存在します。
代表的なものは以下の3つです。
-
- JIS(日本産業規格・日本工業規格)
日本国内で主に使用される規格です。
色分けや表示方法が日本仕様になっています。 - IEC(国際電気標準会議)
欧州を中心に広く使用される国際規格です。
JISとはカラーコードや記号が異なることがあります。 - ASTM(アメリカ材料試験協会)
北米で使用される規格です。
記号や表示方式が独自で、JISやIECと異なる部分もあります。
- JIS(日本産業規格・日本工業規格)
【主な違い】
-
- 色分け(カラーコード)
- 線の記号や材質表記
- シースの材質や構造
海外製品との接続や輸出入時には、規格の違いに注意が必要です。
誤認識によるトラブルを防ぐため、規格の確認は必須です。
【6】補償導線を使わないとどうなる?
「配線は何でもいい」と思っていると、危険です。
補償導線を使わないと、次のような問題が起こります。
-
- 温度測定の誤差が発生する
- 測定器の表示温度が正しくない
- 製品品質の不良や異常が起きる
- 設備トラブルや事故の原因になる
特に、精密な制御が必要な工程では致命的です。
たった数度の誤差が、大きな損失を生むこともあります。
正しい補償導線を使うことが、安全と品質につながります。
【7】まとめ
補償導線は、熱電対とともに温度測定の精度を支える重要な部品です。
それぞれの熱電対に合った種類を選び、規格に準拠することが大切です。
初心者の方でも、基本を押さえれば難しくありません。
温度測定の信頼性を高めるために、補償導線の正しい使用を心がけましょう。
次回は「被覆熱電対線」について紹介予定です。



